120 Hz と KVM 機能が共存するなんて - U3425WE
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ディスプレイに関してはいつも心が揺れ動いている。去年も高リフレッシュレートが好きだから通常作業にもあえてゲーミングディスプレイを使っている話を記事にした。
また、ディスプレイそのものではないが KVM スイッチと呼ばれる機器を導入して、ディスプレイ&キーボードを複数台の PC で切り替えて使っている話も書いた。
ここで書いた Anker の KVM スイッチは職場で現在も快適に使えている。その一方で家庭での環境にも手を入れたくなってきた。
近年は KVM 機能を丸ごと内蔵しているディスプレイも存在するので丸ごとアップグレードを企んだのだけど、ディスプレイメーカーはなぜか「ゲームやらないなら高リフレッシュレートいらないよね」「KVM 機能はビジネス用には便利だよね」などと決めつけていて、両方の特徴を同時に備えた製品をなかなか見つけられない状況が続いていた。
そんななか今年になって Dell が発売した U3425WE という製品はまさに「120 Hz で KVM 機能搭載」そして個人的に好きな 34 インチサイズで曲面のウルトラワイド。解像度は UWQHD(3440 × 1440)である。ディスプレイの平均から考えると高価ではあるが構成がシンプルになり、さらには“IPS Black”によって表示品質も向上する期待があり導入してみたよ。
IPS Black
前回の VA パネルゲーミングディスプレイは見やすく疲れずに作業できる点では気に入っていて職場にも導入したぐらいだが、どっしり構えて写真や映像を楽しもうとするとその発色に物足りなさを感じてしまう部分もあった。色域が sRGB:99% までしか謳っていないから当然ではあるがどうにも色褪せた感じで気分が盛り上がらない。
「やっぱり高色域な IPS かなぁ」「でも黒の黒さでいったら VA だよなぁ」「OLED 製品も増えてきたけど寿命がなぁ」と心が揺れるなか出てきたこの製品は“IPS Black”採用である。この技術はなんでも IPS パネルで暗い発色をさせた部分がバックライトを透過しすぎて白浮きしてしまう問題への対策らしい。これをもってしても VA の液晶や OLED にはコントラスト比の数値で負けているとはいえ、かなり「いいとこ取り」な美味い話だ。
とはいえこの技術、実は数年前に初搭載製品が出たときにいち早く海外レビューに目を通して「普通にバックライト漏れるよ」「言うほどではない」「あまり効果ない」といった話も目にしていたから期待半分、不安半分といった気持ちで本製品と対面することになった。
実際に目にすると VA パネルからの乗り換えだから「黒が黒い!」という感動は特になく、むしろ Display P3:98% の鮮やかな世界になった感動がずっと大きい。とはいえそのうえで黒の黒さも VA パネルから見劣りを感じていないから一つのゴールなのかもしれない。
黒が黒くて色鮮やかという意味では OLED も気になっていたけど、ゲーム中心の使い方ならともかく PC 作業では 同じ情報を表示し続ける使い方が多いから手を出す勇気(有機 EL だけに)がなかった。AW3423DWF みたいに焼きつき 3 年保証の製品を選び「焼きつき上等!」と心で叫びながら思いきり使い潰すのも楽しそうではあるけれども。
それと、いまさらこれを書くのはあれだけど、長年かけていろんな種類のディスプレイを使ってみて思ったのは実際にはパネルの差異よりも設置環境のほうがまず重要だということ。たとえ黒い部分が完全に無発光な OLED ですら自分の背後に光源があったら台無しである。表面がグレア加工ならくっきり浮かぶ虚像が気になるし、アンチグレアであっても全体が白っぽくなる。設置環境大事。
120 Hz
世の中のほとんどのディスプレイは 60 Hz なので 120 Hz という数字は高リフレッシュレートと呼ばれる領域だが、ゲーミングディスプレイと比べると高くはない。実際、これまで使っていたゲーミングディスプレイは 160 Hz に対応していたので乗り換えてスペックダウンした部分である。
さすがに 160 Hz のとろけるようなスクロールと比べてしまえば一段階ぐらい滑らかさが落ちた気がするものの、60 Hz と比べればずっといい感じ。Web ブラウズやコーディング作業であっても Magic Trackpad でスクロール中に把握できる情報量が大きく、思考が途切れない感じで悪くない。
一般向け製品の高リフレッシュレート化はなぜかスマートフォンやタブレットが先行し、やっと数年前に MacBook Pro が ProMotion に対応したばかり。PC 用ディスプレイの世界でもこのままゲーミング以外の製品での採用が増えてくれるといいなぁ。
EDID を流し続けてくれる KVM は貴重
今回の大きな目的だった KVM 機能。これがあるからといって難しい操作は必要なく一般的なディスプレイと同じように映像入力を切り替えるだけでよい。映像の変化とともに本機の内蔵している USB ハブの接続先も連動してその PC に繋ぎ変わるようなイメージだ。USB 接続であればマウスやキーボードだけでなく Web カメラも切り替えできた。
KVM の機器を選択するときの大きな基準の一つに「EDID エミュレート機能」がある。これはディスプレイの接続に関する話で、そもそもこれを搭載していないものは DisplayPort を抜き差しして単純に PC 1 から PC 2 にケーブルを繋ぎかえた場合と同じような挙動となる。
もちろんそれでも映像と操作対象を切り替える目的は達成できるのだが、映っていないほうの PC では「ディスプレイを抜かれた」と認識するわけで、クラムシェルモードの MacBook がスリープしてしまったり、Windows PC のウィンドウがリサイズしてしまったりと、使い方によっては不都合になることも多い。
そもそも普段 PC がディスプレイを認識しているのはディスプレイから「こういうディスプレイが繋がっているよ」と PC 側に送信している信号(EDID)を受け取っているためであり、これを映っていない側の PC に対しても流し続けることができれば切断による現象を発生させずスムーズに行き来ができる、雑に説明すればそれが「EDID エミュレート機能」である。
「信号を出し続けるだけ」と言ってしまえば簡単な話だが、単純な接続/切断の切り替えで済んでいた設計と、ディスプレイから来ている信号を取り出してそれぞれの PC に都合がいいように加工して再度流す処理が入る設計とでは複雑さが段違い。そのため KVM 製品はこの機能の有無によって数万円単位で価格が違っていることが多い。
本ディスプレイの搭載している KVM 機能ではどうかというと、MacBook で AirPods に音を出しながら映像を Windows PC に切り替えてもスリープで停止することなく聴き続けることができており、映っていないほうの PC に対しても EDID を流し続けてくれているようだ。ディスプレイ内部で処理してくれていれば経路の途中で処理を挟むよりもオーバヘッドや副作用が少ないはずで合理的な構成だといえる。とても快適に使えており、これが今後も安定して使えてくれるのであれば言うことがない。
DDC で PC 側から入力切替
HDMI や DisplayPort は基本的に映像出力側からディスプレイに映像信号を流すものであるが、DDC という規格があって映像のほかにディスプレイを操作するコマンドを送信できるようになっている。
本ディスプレイもそれに対応していて、Dell の用意しているユーティリティソフトウェアを PC にインストールしておくと PC 側からディスプレイをコントロールでき、さらにはキーボードのホットキーを割り当てることで手元をホームポジションからずらすことなく入力切替が可能だ。
それに連動して前述の KVM 機能が働くのがポイントで、キーボードやマウスの操作対象まで変化してくれるからとてもスマートである。
最近気に入っているキーボードの HHKB Studio は各キーの役割を変更できるからこういう役割にうってつけだ。1 つのキーを押すだけで Mac と Windows PC を行き来できる環境が実現できて過去最高にしっくりきているよ。
Thunderbolt 対応
本機は HDMI や DisplayPort に加えて Thunderbolt のポートも備えている。
Thunderbolt ポートを使えば Mac とケーブル一本で接続するだけで本機に接続した複数の USB 機器を映像出力と同時に接続できるから配線がシンプルになるのがありがたい。もちろんこれは単体 PC で使ってもいいし KVM 機能の切り替え対象の 1 PC としても使える。
言うまでもなくそれ以外の映像入力ポート(HDMI と DisplayPort)については別途 USB ケーブルがないと USB ハブ機能を使用できない。
自分はそもそも MacBook との間に Thunderbolt ハブ(CalDigit TS4)を挟んでいるから数千円値段が下がるのなら DisplayPort でも良かったというのが本音だけれども。
スピーカーが意外に…!
ディスプレイの内蔵スピーカーというのは基本的におまけのようなもの。過去に買ったどのディスプレイも一度音を流して「やっぱりこんな感じね…」とそれっきりになっている。音質は基本的にガサガサしていて音量も最大にすればやっとちょうど良くなる程度しか出ない。いい評判を聞く製品は Apple の Studio Display ぐらい。
だが何気なく本機の内蔵スピーカーを流してみてびっくり。まず音が非常に大きい。音量が真ん中であっても壁が薄ければ隣の部屋から苦情が来かねないレベルで鳴り、慌てて停止した。
慎重になってちょうどいい音量まで下げたら想像の数倍いい音が聴こえてきたし、何より音場が広い感じが気に入った。ハードウェア設計に加えてデジタルの音声処理が上手く効いているのだろうか、とにかくどこにスピーカーの穴が空いているかなんて感じさせない音の出方が気持ちいい。
前回のゲーミングウルトラワイドのときから下に iPod Hi-Fi を置いているのだけどさすがに低音はそちらが上回っている。だがこの音場の広さは捨てがたい…。いろいろ試した結果、本ディスプレイのスピーカーと iPod Hi-Fi の両方から同時に音を鳴らす運用に落ち着いた。
ちなみに内蔵スピーカーの音声ソースは映像と連動しているため、音楽再生中に別の PC に映像を切り替えると聴こえなくなる。よくある仕様だがいいかどうかは使い方によりそう。
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個人的にディスプレイに求めていた機能や性能のほとんどが揃っている夢のような製品。実際に使ってみて期待通りの快適な環境が実現できて良かった。
あと求めるのは壊れないでいてくれることのみ。電源内蔵で機能も多いから若干心配している。大きい製品だと交換修理も面倒だしね。
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