togo

= ひとりごと to go

zumuya の人による机の上系情報サイト

Mac でウルトラワイドゲーミングディスプレイを使う、その心は?

  • Apple
  • ソフトウェア
  • ハードウェア
  • 作業環境

ディスプレイは PC 作業の景色を大きく左右する。気分転換になるのでときどき入れ替えていて現在使っているのは去年導入した 34 インチ VA パネルの UWQHD 曲面ウルトラワイドゲーミングディスプレイ。

サイズ、縦横比、解像度、湾曲、VA パネルなど、自分にとって初体験な要素てんこ盛りな製品だったのだけど想像以上に気に入ってしまったのでメモしておこう。しかしそこに至るまでの話がちょっと長い。

高リフレッシュレートが活きるのはゲームだけじゃない

現在のところ世にあるほとんどのディスプレイは 60 Hz で、それを超えるリフレッシュレートに対応しているのはほとんどがゲーミングディスプレイ。今回の目的はゲームではないのだけどあえてこれを重視して選んだ。

実は昔、ここまで大きくないものの 144 Hz のゲーミングディスプレイを買ったことがある。それは普通にゲーム目的で入手したものだ。特にずんずん景色の奥に進んでいくレーシングゲームで臨場感を上げる効果が絶大だと聞いていたので遊んでみたのだが、思ったほど感動できないばかりか、平面ポリゴンに透過テクスチャを貼ったものをたくさん重ねて生い茂った木を表現しているようなごまかし部分が画面を横切るときにくっきり形状認識できてしまい、逆に気持ちが盛り下がって使わなくなっていった。

しばらくして職場で Windows マシンの作業用にディスプレイが必要になり余っていたこれを使いだしたところ、思いのほかメリットがあった。Edge でのスクロールがとてもヌルヌル動くのだ。単に気持ちいいだけでなくスクロールしながら文章が頭に入ってくる!

たとえ華やかな表示のゲームとは程遠いコーディングみたいな作業であっても調べ物をする時間は長くこのメリットは無視できないぐらい大きい。なんだかそれ以来 60 Hz のディスプレイで PC 作業をするとそれだけでレスポンスが悪く見え、SSD に慣れた身体で HDD 起動のマシンを触ったときのような前時代のものにすら感じられるようになってしまった。

Mac での話もすると、そのディスプレイを職場で使いだすまえに一度 Mac に繋いでみたことがある。システム環境設定には「144 Hz」と表示が出たものの、操作してみると明らかにそんな動きはしなかった。そこから何年も経った 2021 年、ProMotion と呼ばれる 120 Hz ディスプレイを初搭載した MacBook Pro が出たときですらほとんどの Cocoa アプリケーションが 60 Hz で動作することが話題になったのもそういうこと。これまで純正で 60 Hz 以外のディスプレイを出していなかったからろくに対応していなかったのである。

もちろん Apple だって何の意味もなく ProMotion ディスプレイを採用したわけではなく、それから数ヶ月の間に OS 側の対応も進んできた。いくつかのアップデートを重ねて「そろそろかな」と数年ぶりに繋いでみると...最高!

明らかにレスポンスがよくなったし、ProMotion ディスプレイを搭載しているのが M1 Pro 以上の MacBook Pro だから心配していたマシンの負荷も、無印 M2 の MacBook Air でも十分にヌルヌル動かす性能があるのを実感できた。

特に macOS はもともと 1px 単位の慣性スクロールがスムーズに動く App の数が Windows よりも圧倒的に多く1、それらのほとんどが OS の進化で自動的に高リフレッシュレートに対応したわけだからあらゆる作業でこのメリットを感じることができるのだ。

「私はゲームしないから 60 Hz で十分」なんて言ってる人たち、一度高リフレッシュレートのディスプレイを触ってみてほしい。

ただし自分は Surface Laptop Studio や MacBook Pro 上位モデルの内蔵 ProMotion ディスプレイ(いずれも 14 インチで 120 Hz 対応)ではほとんど感動しなかった。デスクトップ用のディスプレイでこそ動く面積が大きくて効果ある気がしている。

WQHD でほどよく HiDPI 表示したい

Retina ディスプレイが、というか HiDPI 表示が大好きだ。極端に広大な作業領域を求める気持ちよりも、いつまでも昔の基準のままギザギザした UI 部品を眺めるときの苦痛のほうが圧倒的に大きい。だから Mac で外部ディスプレイを使うなら少なくとも 4K はないとつらいなという気持ちでいた。それを下回ると実用的な広さの作業領域の HiDPI 表示が選択できなかったためだ。

一方で macOS がサポートする HiDPI の倍率は 200% 固定なものの、それをピクセル等倍したものと全体を少し縮小(スケーリング)して作業領域を確保した状態とではそこまで品質の差を感じない。実際 MacBook Air などは標準でそのスケーリングが有効になっている。このことから「現在の macOS は対応していないけど、もし縦 1440 px のディスプレイで縦 1080@2x を縮小したものが表示できたら十分に実用的なのではないか?」と思うに至った。

あるとき BetterDummy という、好きな解像度の仮想ディスプレイを追加できるアプリケーションが登場してそれを試すことができた。4K(3840x2160 px)ディスプレイをつなげたことにして、その 1080@2x の映像を本物の WQHD(2560x1440 px)にミラーリングすると...思ったよりいける!

仮想の 4K ディスプレイをミラーリング

ピクセル数で考えればかなりの縮小表示だから純正 Retina ディスプレイほどの密度感はないとはいえ想像以上に HiDPI のくっきり高精細な気持ちよさを感じられるし、WQHD なら 4K と違って安価に高リフレッシュレートの製品が手に入るではないか。

ただしこの仮想ディスプレイを使った方法では 60 Hz 固定になってしまうため、これではただの劣化版 Retina ディスプレイでしかない。別の方法を考えよう。辿り着いたのはカスタム解像度を記述したファイルを追加する方法だ。純粋にシステム環境設定に並ぶ解像度の選択肢を追加できるので余計なオーバヘッドも少ないはず。

これ実は何年も前からある方法だけど、昔は /System/Library/Displays/ に置かないといけなくて OS のセキュリティ保護に拒否されるからハードルが高かった。それがなんと最近は /Library/Displays/ でも認識してくれるらしい。しかもこの設定ファイルを簡単に生成できる Web アプリケーションを見つけた。

カスタム解像度を定義

Apple が公式で謳っていない隠し機能のためやりたい人は自己責任で自分で調べてやってほしいけれども、自分の環境(macOS 12.6.3 on M2 MacBook Air)では問題なく WQHD ディスプレイで 4K 相当の解像度を選択できるようになった。それでいてリフレッシュレートには 144 Hz の選択肢が出てるよ。

WQHD ディスプレイが 4K 相当になった!

もちろんこういう隠し機能は将来の OS アップデートで使えなくなる可能性もあるのでご注意を。

買ったもの

...長くなったけど、そんな感じで「macOS において高リフレッシュレートとカスタム解像度の HiDPI 表示が両立できる」のを確認したことでディスプレイの選択肢が広がり昔は選べなかったタイプの製品が視野に入ってきたのである。そしてこれを購入:

前置きが長かったのであらためて書くと、34 インチ VA パネルの UWQHD 曲面ウルトラワイドゲーミングディスプレイだ。

曲面とウルトラワイド

ずっと曲面のディスプレイには憧れがあった。というか iMac の 27 インチディスプレイですら「平面で見にくいな」と感じ、それを綺麗に解決しているアイデアに見えていたのだ。ディスプレイ横幅が大きくなればなるほど、中央を見るときと左右端を見るときで目からの距離の違いが生まれるためである。せっかく広いディスプレイがあってもどのウインドウも中央に寄せて使っていたぐらい。

今回、やっと念願の曲面ディスプレイを手に入れた。これは実際に使ってみても期待通りの効果があって、32:9 という極端に横長な縦横比でありながら隅から隅まで見やすい。

ぐにゃっと曲面

もちろんこのディスプレイも前述の方法で縦 1080@2x で表示。ほどほどに広くてほどほどに高精細、ちょうどいいバランスに感じられる。

ウルトラワイドでもカスタム解像度

ここまでくると Mac 側は高リフレッシュレートで 5K に近い解像度の映像を生成して送り続けないといけないわけだが、M2 MacBook Air は特に引っかかりもなくヌルヌル動いてくれてる。それでいてファンレスなのに熱くないのだから昔では考えられない...!

重ねても並べても

YouTube とかで世の中のウルトラワイドユーザを見るとウインドウを隙間なくびっちりとたくさん並べるような使い方をしてる人が多い。自分は逆にアプリケーションごとに中途半端だけど使いやすいウインドウサイズがあってそれを気分に応じて中途半端な位置で重ねながら使う派2なのだけど、そんな使い方でもこの幅広な作業領域は活きる。

もちろん作業によっては並べるときもあって、特に作業中に Finder のウインドウをまるごと脇に置いておけるのは効率が上がるね。曲面のおかげで端のウインドウまで見やすくて助かってる。

VA パネルの見え方

初めての VA パネル。一般的に色域や視野角といった性能が価格と比例して「IPS > VA > TN」である一方で、黒の締まりは「VA > IPS」とされており、IPS と VA のどちらが優れているかは一概に言えない。

実際に目にしてみると、いい点も悪い点も思ったよりおとなしい印象を受けた。

ノングレアの表面処理のせいもあると思うが黒の締まりは「言うほど黒いか?」と思ったし3、逆に視野角だって昔の低品質パネルみたいにちょっとでも斜めから見たら変色するようなことはなく、普通に正面のイスに座って作業するかぎり、なんならちょっと隣の人に覗きこませても誤ったカラーの印象を持つことなく使えそうだ。

とはいえ本製品の色域は sRGB 99% とそんなに広くない。前回使っていたのが量子ドットによる色変換で鮮やかな IPS パネルだったこともありさすがに色褪せて見えるのは事実なのだが、数日使っていたら慣れてしまった。もちろんカラー再現性を重視する人は普通に IPS のものを選んだほうが幸せな気がする。価格以外に積極的に VA パネルを選択するメリットはあまり感じられなかった。

最近はより黒の締まりを強化した“IPS Black”だったり、逆に量子ドットで色域広く鮮やかな表示ができる VA パネルとか、はたまた QD-OLED(量子ドット有機 EL)パネルの PC ディスプレイ製品が出てきたりと方式の異なる各方面の技術がそれぞれ進化を重ねており、しばらく続いた IPS 一択みたいな状況が変わる可能性もある。今後どうなっていくのか目が離せない。

寿命問題がもう少し改善されたら QD-OLED にも手を出してみたいな〜。


  1. Windows では UI フレームワークが乱立しており、アプリケーションがどれで作られたかによって操作感が違いすぎるというのは当サイトで何度も書いてきた話。 ↩︎

  2. むしろスクリーンが隙間なくぴっちりとウインドウで満たされている状態が気持ち悪く感じる。 ↩︎

  3. mini LED のディスプレイを使っていたときもせっかくの黒さがノングレア処理でスポイルされている印象を受けた。Retina 化以降の MacBook みたいに、グレアに優秀な反射コーティングをしてくれるのが個人的には理想かもしれない。 ↩︎

Share

リンクも共有もお気軽に。記事を書くモチベーションの向上に役立てます。