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凹型パームレストを作ろう

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人間はつい初心を忘れるもの。初見で直感的に変だと思ったものも見慣れるとなんとも思わなくなってしまう。振り返ればキーボードの手前にパームレストを置く文化を知ったときだって「机の上にそんな塊があったら邪魔だろう」と思ったものだ。

それにその当時はデスクトップ環境であっても薄型のキーボードへの波が来つつあった。なんでわざわざ分厚いキーボードを使って高さを合わせるためにさらに板を置くのか。「最初から薄いキーボードを使えば良いのでは?」とまで考えていた。

メカニカルキーボードの打ち心地を知った今ではそれでしか得られない満足感があるとわかっているけど、やっぱりそのために板を置くのは変な気がする。板の存在を消してフラットにしたい...

これまで MacBook Pro やらレールやら、いろんなものをデスク天板に埋め込んできた(→ 2019.8.182020.4.29)当サイトの人間がどう考えるか、ここまでくればわかるよね。パームレストを置いて机に段差が増えるぐらいなら、いっそキーボード丸ごと机に埋め込んでしまいたい! 巨大な机に溝を掘るのは大掛かりなのでまずはほどほどな大きさの天板で実験してみよう。

凹型にたどり着く

↑ ここまではもはや定番の流れ。ただし今回はこの先がちょっと違う。

いつもの感じだとホームセンターで買えるいつもの天板にキーボードがぴったりはまる大きな溝をのみで掘るのだが、それをやるには今回のキーボードは厚すぎる。むしろ未加工な天板の厚みがパームレストとしてちょうどいいことに気づいたので、今回は掘らずにキーボードを左右手前から囲い込む方針でいこう。

すると必要最低限な形状は自ずと見えてくる… 今回の作品は「凹型おうがたパームレスト」である!

キーボードを囲い込む形

凹型の作り方

そもそも自分はものづくりの工程そのものにそこまで喜びを感じない。できるだけ手間はかけたくないし既製品で済むならそれに越したことはないと考えている(→ 2021.5.5)。危険な作業も怖いから事故の規模が大きくなりがちな電動工具を買うことにも慎重で、電動工具のなかでは比較的安全なドリルしか持っていない。

凹型の大きい板…、こんな自分ができるだけ簡単に作る工法を考えたら、今回はダボ接合にたどり着いた。凹の字の上半分を下半分にあとから接合するのである。そこに使う電動工具はドリルだけで事足りる。

3 枚の板
ダボ継ぎ

それぞれの板に大きめの穴を途中まで開けてダボと呼ばれる円筒状の木片を半分ずつ埋め込む。ここで真っ直ぐな穴が重要。手持ちのドリルだとどうしてもそれを水平に空けられず接合部を境界として傾斜が生まれてしまうがある程度は目をつぶるしかない。

平らにする

ほら、凹型になったよ。少ない工程で形状が完成したものの、所詮はホームセンターで買える木板。同じ厚みの板として売っているものの精密に寸法が一致するわけではないし、そこに初心者のダボ接合の工程も加わるとどうしても段差ができてしまうので後工程が必要。そこに魔法や近道はなく、よいしょよいしょとひたすらかんなを引く地味な作業1となった。

どうしても段差ができる

平らになったらやすりがけ。ここは木工を行うかぎり何度も通る道。これは単調だけどやればやるほど結果が出る作業だから意外にやりがいがある。

ツルツルになったよ

塗装

実は最近お気に入りの塗料がある。可動式パームレスト(→ 2018.2.24)のパームレスト部分をバード電子が販売するものに変更したら手触りが良かったのでそれに使われているオイルを買ったのだ。

バード電子のパームレスト

クリア(着色なし)なので本来の木目にツヤと透明感が追加される感じ。

お気に入りの塗料
透明感

完成品

できた! キーボードの手前からはめ込む様子はまるで車のバンパーのよう。

いつもの板材を気に入っている一番の理由はこの角の丸みだ。接合部を綺麗に平らにしたのも相まって、端から中までどこに手を置いても痛くない優しい手触りが実現できた。

分離型であること

キーボードの幅ぴったり。当初の目論見通り、まるで天板にキーボードを埋め込んだような感覚がとても心地よい。

だが、裏を返せばこれは特定のキーボードの幅や形状に合わせた専用品であり、ほかのキーボードも使いたければそれに合わせて別のパームレストを作らないといけない。これなら最初から天板込みで自作キーボードを作るのと変わらないのでは?

それでも個人的には分離型としてのメリットがあると思っている。

  1. 作るのが楽
  2. あとからキーボードだけ持ち出せる
  3. 天板部分を着せ替えられる
  4. キーボードからの振動が直接伝達しない

1 と 2 はわかると思うけど、実物を触ったら特に 4 のメリットが強く感じられた。独立した物体だからキーを押下して生まれる振動が直接手首に伝わらないのだ。

何倍も大きくがっしりした机を通り、ゴム足で減衰し、それから普通のパームレストより広い面積に分散されたうえで手首に伝わるためほとんど振動を感じない。ホームセンターで売ってる加工用の軽く柔らかい木材なのに見た目以上の剛性感があるのだ。凹型は軽い木材で満足感を得るには最適だったみたい。

マウス重視=自作キーボードの流れとは逆?

実はこの作品、最初からマウス操作のことを考えていた。自分は Mac ではトラックパッド、Windows ではマウスやペンタブレットを使用しており、今回の作品は後者のためのものだ。前者にはすでに快適な可動式パームレストがある。

パームレストとマウスは基本的に相性が悪い。キーボードの手前に一般的なパームレストを置くと、そことマウス手前との段差が生じて両デバイスの行き来が大変になる。かといってマウスの手前にもパームレストを置くと手首の位置が固定されてマウスを動かしにくくなってしまう。

一方、凹型パームレストにおいてキーボードの両端にある余白はそのままマウスパッドとして使用できる。パームレストといってもキーボードの位置が相対的に下がるだけなのでマウスは平らな天板の上で滑らせるのと変わらない操作感だ。そして段差がないから腕を持ち上げなくてもマウスを持つ手をそのまま横に滑らせるだけでキーボードのホームポジションにたどり着くのである。

横滑りでマウス操作へ

これって実は自作キーボードの世界の主流とは逆の方向性かもしれない。あの世界においてはホームポジションが第一。長時間続けても無理のない腕や指の角度の正解を一つ見つけたらそこに合わせてキーボード側を最適化する。そこから腕を動かすことを嫌いキー操作の手の形からそのまま指が届く位置に部品としてトラックボールを取り付ける人も多い。だからマウスの使用そのものが世間よりも少数派に見える。

自分の場合は連続でテキスト入力をすることはほとんどない。コーディング作業もするが入力前に調べ物をする時間のほうが長く、テキスト編集で細かいテキストを選択するときですらポインティングデバイスを多用するほうがしっくりくる。それに同じ姿勢でじっとしたまま物事を考えるのが苦手だ。

凹型パームレストならキーボード以外の部分は手前ですら地続きのマウスパッドとして使用でき、腕の角度は自由になる。段差がないからマウスを持たない側の手も置き場を選ばない。

地続きのマウスパッド

こうやって自分自身の使い方に最適化できるのが自作ガジェットのいいところですね。

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当サイトで紹介した作品のなかで最も作るのが簡単だと思う。パームレストをダボ継ぎするアイデアはいろいろ応用ができそうなので、みんなも自分のキーボードやポインティングデバイスに合わせて作ってみてね〜 👋


  1. 鉋は今回のために購入。家にまた工具が増えてしまった… ↩︎

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